あの日溺れた海は、

教室に着くといつものようにカバンの中身を机にしまっていく。

そして最後に携帯を取り出すとメッセージアプリを開いた。


『月、今日一緒にお弁当食べない?話したいことがあるの。』


そう送った瞬間に既読がついて、かと思えばすぐに返信を告げる音が鳴る。


『おけ!晴れてるし中庭のベンチとかどう?』


そこなら人気もなく話しやすい。『うん、じゃあそこで!』と送ると猫がOKと言っているスタンプが送られてきた。


ふう、と息をついて画面を閉じると「おはよ。」と後ろから声を掛けられた。


「おはよ。」


いつもと変わらない笑顔をわたしに向ける亮に、わたしは少し胸が痛くなった。

そんな気持ちが顔に出ていたのか、亮は「そんな顔すんなよ。」とわたしの頭を軽く叩いた。


「昨日、振られなかったんだろ。」


唐突にそう言う亮に目を丸くして見つめた。


「何でわかるの?」


「そうやって顔に書いてあるから。」


そう言って亮はわたしのおでこにデコピンをお見舞いすると「おめでと。」と小さな声で呟いて自分の席へと帰っていった。


わたしはおでこを手でさすりながら亮の背中を見つめた。

亮だって辛いはずなのに、わたしに祝福の言葉をくれた、その優しさにまた助けられた。

< 350 / 361 >

この作品をシェア

pagetop