あの日溺れた海は、


「じゃ!決まりだね!まずはおじいちゃんに許可もらってこよう〜!」


いつの間にか話し合いは進んでおり、大体の場所は決まったらしい。月がそう言うと、言い出しっぺの喬香と部長だからとわたしがおじいちゃんに許可をもらいに行くことになった。



「ええ!?なんで!」


部活動の時間だからだろうか、空席が目立つ放課後の職員室に喬香の甲高い声が響く。

「僕ももう歳なの。腰が悪いしもう君たちには体力的についていけないのよ。」


毎年合宿には引率の教師としておじいちゃんが連れていってくれていたのだが、今年はあっさり断られてしまった。

腰をさすりながら眉を下げてそう言うおじいちゃんに姜香はやだーと頬を膨らましながら駄々をこね始めた。



やだも何も、というおじいちゃんと絶対に譲らない姜香の押し問答がしばらく続くと、じゃあ、とおじいちゃんは斜め右の席に座る教師に視線を投げた。


「藤堂先生、僕の代わりに行ってあげて、ね?」


「ええ?」


おじいちゃんの言葉に驚いて意図的に視界の外に追いやっていた藤堂先生の顔を見ると、思いっきり眉を顰めておじいちゃんを見ていた。


「いや、私は…。」



そう言いかける先生におじいちゃんは「藤堂先生は、僕には逆らえないんですよねえ。ね?」と再度先生に問いかけた。



ニコニコと笑うおじいちゃんと胸の前で手を組み潤んだ瞳で見つめる喬香を交互に見つめた先生は深くため息をついた後、観念したかのように「はあ」と曖昧な返事をした。


そんなやりとりを見ていたわたしもまた顔を強張らせて気まずさを隠せずにいた。
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