エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 部屋にはベッドがふたつ。サイズはどちらもセミダブルで真ん中には人が通れるほどの間隔を空け、壁際にナイトテーブルを置いている。まるでホテルのツインルームだ。

 ベッドをふたつとも通り過ぎ、奥のカーテンに手をかけ静かに引いて、外の光を部屋に取り入れた。続けてすぐさま踵を返し、そばのベッドに声をかける。

「おはよう、稀一(きいち)くん。朝だよ、起きて」

 小さすぎず大きすぎないボリュームを心がけて声をかける。するとベッドに体を横たえたままの彼が軽く身じろぎした。

「ん」

 寝起き特有の掠れた声は妙に色っぽくどぎまぎする。そもそも襟付きのパジャマ姿とか、こんな無防備な彼は一緒に住むようになって初めて見た。

 いい加減、慣れないと。

 ときめきで苦しくなる胸を押さえて平静を装う。もう一度、声をかけようとサイドフレームまで身を寄せ、ベッドに身を乗り出し彼に手を伸ばす。

 サラサラの柔らかい髪に触れようとした瞬間、切れ長の目がぱちりと開かれた。おかげで私はなにも悪いことをしていないのにそのままの体勢で固まる。

 わずかに眉間に皺をよせた後、見上げる形でこちらを向いた彼と目が合う。

「おはよう、ひな」

 口元にかすかに笑みを浮かべ、不意打ちの挨拶に心臓が跳ね上がる。

「お、おはよう。大丈夫? 昨日も遅かったの?」

 姿勢を正しやや早口で返す私に対し、彼もおもむろに上半身を起こした。
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