エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
「コーヒー淹れたから、ちょっと休憩したら?」

「ありがとう、もらうよ」

 ソファテーブルにコーヒーのカップを置くと、稀一くんが静かにソファに腰を下ろす。カップに手を伸ばし一口飲む姿はどこか気品があった。

 一方で集中して荷造りしたからかさすがに顔に疲労の色が滲んでいる気がした。

 私は稀一くんの左隣に座り、彼がコーヒーを飲むのを邪魔しない程度に左腕に自分の腕を絡め密着する。

「もっと前々から支度しておけばいいのに」

 心配をひねくれた言葉で唇に乗せると、稀一くんが苦笑したのが伝わってきた。

「毎回そう思ってはいるんだ。でもこればかりは、いつも直前にならないと動けないんだよな」

 気の抜けた言い方に私もつられて笑った。職業柄というより彼の性分なんだと思う。

「稀一くんって昔から自分のことは後回しだもんね」

「否定できないな。ただ、あんまり早く出張の準備をするとひなが寂しがると思って」

 まさかここで私の名前が飛び出すとは思ってもみなかったのでわずかに顔を上げて隣を見た。

「私のせいなの?」

 目をぱちくりさせる私に稀一くんは口角を上げてにやりと笑う。

「そう。俺が一番優先するのは日奈乃だから」

 ストレートな台詞に一瞬で頬が熱くなる。

 ここはありがとうって言うべきなのかな?
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