ボトルメール
そんなことを言いに来たんじゃなかったことを思い出した。
「くるみ…勝手なことしてごめん。」
「手紙…届いたんだね。手紙、読んだんでしょ?なら、謝らないでよ。むしろ、謝りたいのは私の方。」
「なんで…」
「平気。全部俊と楓に聞いたから」
俺だけが『先輩』とついていたが、仕方がないと思った。俺だけがあの時から時が止まっているのだから。
「もしかして…ずっと待ってたのか?」
「うん。ずっと待ってた。彰先輩のことを。でも、会えただけで満足した。だから、彰先輩には新しい人生を歩んで欲しいな」
「新しい…人生?」
「うん。可愛い女の子と付き合って結婚して、私の事なんか忘れて人生を謳歌して欲しい」
俺にはくるみが本心で言っていないことはすぐにわかった。
「じゃあ、くるみが必要だな。」
「……え?なんでよ。こんな七十後半のおばさん…彰先輩には勿体ないよ。」
「年齢なんか関係ない。俺はくるみが好きだ。一度振ったのに図々しいかもしれない。でも、やっぱり俺にはくるみしかいないから…これを」
俺は来る途中に香織さんに寄ってもらった場所で買った『指輪』を差し出した。サイズは俺が眠る前に測ったものだから合っているか少しだけ不安だった。
< 346 / 348 >

この作品をシェア

pagetop