天才脳外科医の愛が溢れて――もう、拒めない~独占欲に火がついて、とろとろに愛されました~
お肉の注文はふたりに任せ、まずは乾杯して肉を焼いていくと、樹が自分のジョッキを私の方に置いた。
「俺の飲んでいいよ」
「あっ、ありがとう」
お言葉に甘えてひと口ビールを飲む。
「あー、喉越しよくて美味しい。とりあえず満足しました」
そんな感想を言ったら、兄が怪訝な顔をする。
「お前もビール頼めばよかったのに」
「明日仕事だし、ビール好きだけどお酒そんなに強くないから」
ふふっと笑って返す私を見て兄はどこか自嘲気味に相槌を打つ。
「そうか。考えてみたら、兄なのに俺はお前のことなにも知らないな」
「仕方ないよ。お父さんとお母さんが離婚してからずっと離れて暮らしてたし。こうしてお兄ちゃんと食事するのも二年ぶりじゃない?」
私だって兄のことをよく知らない。
昔はお母さんの作ったカレーが一番好きだったけど、今はなにが好きなのかさえ知らない。
「そうだな。俺、結局お前になにもしてやれなかったな。ごめん」
兄が捨てられた子犬みたいな悲しそうな顔をするから、樹を真似て兄の頭を撫でた。
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