強情♀と仮面♂の曖昧な関係

素直になれない

「山形センセーイ。ちゃんと検査室に連絡してますか?」
なかなか検査の順番が来ない赤ちゃんに部長が苛立っている。
「はい」
言われなくたって何度もしてる。
でも、急患で検査室も手一杯みたい。

「いつまで待たせるんだよ。やることしろよっ」
周囲にしか聞こえない音量でぼやく部長。
おかげで、私の気分も最悪だわ。

私はいったい何のためにここにいるんだろう。
最近、本気でここから逃げ出したくなる。


先日、公の異動が発表になった。
地元からの強い要望があったと噂で聞いた。
結局、公からは何も知らされなかった。
辞令の執行は1ヶ月後。
それまでは、このまま長期出張として現地で勤務するらしい。

そして、ここ半月公からの連絡は完全に途絶えたまま。
かわいくない私は、自分から連絡することもしなかった。
いらだちと不安で、一人悶々とする日々。
追い打ちをかけるように、『宮城先生が退職するらしい』と耳にした。
噂にしてはタイムリー過ぎて、笑い飛ばすことのできない状況。
さすがに不安になって公に電話をしてみたけれど、タイミングが悪かったようでつながらなかった。
けれど、きっとそのうち折り返しの電話がかかってくると思っていた。
しかし、いくら待っても電話はないまま。

今でも、私は公の彼女のつもりだった。
でも、公は違ったらしい。

考えてみれば、私は公に何もしてあげていない。
こんなに大変な時期に、優しい言葉をかけることもできなかった。
本当にかわいくない女だ。

公はこれからどうする気だろう。
公の人生に私は含まれていないんだろうか。
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