強情♀と仮面♂の曖昧な関係

公の優しさ

夕方。
今日は部長がいないお陰で、私は定時で上がることができた。
翼のことが気がかりだけど、とにかく自宅のソファーで横になりたくて寄り道もせずに帰ってきた。


「お帰り」

え?

先に帰っていた公に声をかけられ、驚いた。
それに、すごく良い匂い。

「肉じゃが作ったの?」
カバンも置かずに鍋の中をのぞき込んだ。

「ああ。サンマの塩焼きとキュウリの酢の物もあるぞ」
「すごい和食ね」

ククク。と意味ありげに私を見る公。

「何?」
「どうせ、俺がいないと飯食ってないだろう?」
「え、そんなこと・・・」
言葉に詰まった。

確かに、公が側にいなくなってから私の食生活は完全に乱れた。
朝は菓子パンかコーヒーのみ。
お昼はサラダとサンドイッチ。
なんて、ホントは忙しくてチョコやクッキーをつまんで終わることが多い。
そして、夜はスーパーで買った総菜で1人チューハイを飲む。
不健康きわまりない生活。
当然、仕事に出ても体調不良。
良くないとは分っていても、1人だと何もする気にならない。

「今日はたらふく飯を食わせてやる。もうすぐ翼も帰ってくるから、一緒に食うぞ」
「公・・・」

今日一日病院で勤務した公は、翼の噂を聞いたはず。
だからこそ、こうして夕食の準備をしてくれている。
いかにも公らしい。
私は、ありがとうって言葉を飲み込んだ。


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