強情♀と仮面♂の曖昧な関係
「紅羽、行くぞ」
仕事を終えた公が、私の荷物を持つ。

日中を診療所で過ごした私は1で人帰ろうとしたけれど、
「何かあったらどうするんだ」
不機嫌そうな公に止められてしまった。

「寝られそうなら寝ておけ」
「うん」

車に乗り込むときに、タオルケットとミネラルウォーターを用意してくれた。
時々私の方を見るのも、いつもの公とは違う。

「今の病院での勤務はいつまで?」
「えーっと、月末まで」
「あと20日か」
困ったなって顔。

「でも、来月の中旬には新しい勤務に就くから、2週間くらいしか休みはないの」
「そうだな」
何度も異動を経験してきた公の方が詳しいわよね。

「部長に話して勤務を軽くしてもらおうか?」
「はあ?」
冗談でしょ。それに、

「なんて言うの?」
俺の子供ができたって?
ああ、馬鹿らしい。

「やめてよ」
公らしくない。
「これからもっと辛くなるぞ」
「うん」
「お前1人の体じゃないんだぞ」
「大丈夫。分ってるから」

きっと、公は子供の心配をしている。
自分の遺伝子を大事に思ってくれているのか、妊娠させてしまった責任からなのか、それはわからないけれど。

「無理はするなよ」
「うん」
「少しでもいいから、飯を食えよ」
「うん」
「あんまり怒るな」
「・・・」

「返事」
「約束できない」
世の中腹立たしいことがありすぎて、自信がない。

「でも、怒るな。きっと聞こえるから」

「うん。努力する」

公は、きっといいお父さんになる。
優しくて、怒ると怖い理想のパパ。
でも、私はダメ。
親になる自信なんて・・・ない。
< 81 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop