S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

法律事務所のため、三十階あるフロアのうち半分以上は弁護士の個室になっている。
ちなみに朋久の部屋は二十九階。代表弁護士兼CEOが部屋を構える三十階のすぐ真下である。


「おはようございます」


方々に声を掛けながら人事課のブースに向かい、自分のデスクに着く。向かいから同期入社の石田(いしだ)里恵(りえ)が「おはよう」と顔を覗かせた。

小さめながらくりっとした目元に、笑うと大きな三日月のようになる口元。耳を全部出したベリーショートのヘアスタイルがよく似合う快活な女性だ。


「おはよう。里恵は今日も早いね」
「ラッシュは避けたいもん」


里恵は毎朝、一番混雑する時間帯を避けて通勤している。フレックスタイムを導入して所員の勤務時間にフレキシブルに対応する事務所のため、個々のスタイルに合わせて通勤時間を変えられるのはありがたい。


「だけど起きる頃はまだ真っ暗でしょう?」
「うん、真夜中みたいにね」
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