グレーな彼女と僕のブルー
「……なにごと?」

 家が燃えたのは結果から見て明らかだが、僕は母にさっきの独り言を尋ねた。母は「うん」と深刻そうに頷き、「どうやら隣りの家から燃え移ったみたいなの」と現実を教えてくれる。

 すっかり鎮火した我が家を母が眺める。その横顔に、僕の視線も連れて行かれる。

「半焼で済んだのは運が良かったと思わなきゃね」

 そう言って母は重いため息を落とした。「うん」と同意したものの、やはり僕には現実感が湧かなかった。

 火事の被害は建物だけでうちも隣りも火災が発生した時間は、家を空けていた。死者や怪我人が出ることなく消火に至ったのは幸いだったと思う。

 同情なのか好奇心なのか、一時的に集まった野次馬連中がバラけて散り散りになる。ため息混じりに「怖いわねぇ」と頬に手を当てるおばさんもいれば、「何でも放火の可能性もあるらしいわよ?」と眉をひそめるおばさんもいる。

 火元は隣家からだそうだが、放火かもしれないと知り、僕はついそのおばさん連中を無遠慮な瞳で見つめてしまった。不意に目が合い、憐憫の情を向けられる。目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。
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