グレーな彼女と僕のブルー
 思えば紗里と紗代子叔母さんの間には互いによそよそしいような、ぎこちない空気がずっと漂っている。

「いただきます」

 別の小皿に盛られたコールスローを見てから手を合わせた。叔母さんに飲み物の種類を問われ、コーヒーをお願いした。

 て言うか、本当に一年なんだな……。

 紗里のブレザーの襟に【I・3】の組章が付いていたのを思い出し、神妙な顔つきで食事を進めた。

 程なくして、寝ぼけまなこを擦りながら大和が僕の真向かいに腰をおろした。


 *

「あ〜っ、待って待って、恭ちゃん」

 玄関の上がり段に座ってスニーカーを履いていると、二階からバタバタと紗里が降りて来た。

 桜色に染まった唇に一瞬だけ目を奪われ、無理やり視線を引っ剥がした。雑な手つきで通学鞄を掴み、玄関扉を開ける。革靴の踵を鳴らしながら紗里が追いかけてくる。

「せっかくだから一緒に行こうよ」

 隣りに並んだ彼女の笑みを見て、僕は嘆息した。登校時間が被るのは仕方ないが、並んで歩くのは勘弁して欲しい。

 そう思うものの、僕は曖昧に了承した。

「ひとつ目の信号を越えたら先に行くから」

 素っ気ない返事を聞いているのかいないのか、紗里は上機嫌ににこにこと笑うだけだ。

 あの魅惑的な瞳に捕まる前に、朝の風景を見ることに徹した。

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