グレーな彼女と僕のブルー
 五千メートルのタイムを二度測り、さすがに今日はくたびれた。

 メッセージアプリのIDを交換してから二、三通ラインのやり取りをした誠は、紗里の素っ気なさに落ち込み、とうとうタイムにまで影響を及ぼしていた。

 僕より十数秒早かったはずが、三十秒以上遅れを取ってゴールしたのだから、かける言葉が見つからなかった。


 オレンジ色に照らされた道路橋を渡りきり、彼女が脇道に逸れた。その時見えた横顔を見て、やはり紗里本人だと確信する。

 十月初旬のこの時期に、この時間帯に、浮き輪なんか持って何をしに行くつもりだ?

 プールや海水浴なんかで大人が使う大きめの浮き輪だ。裏表の色が黄色と橙色の二色で分けられ、幾分派手に見えた。

 懐中電灯の明かりが紗里の足元を照らした。持っていたのは浮き輪だけじゃなかったようだ。

 紗里はアスファルトの、人ひとり分が通れる幅の階段を降り、そこから整備されていない傾斜面の土手を慎重に降りて行く。紗里の前にはやや深さのある広大な川が流れている。

 尾行がバレたところで別にどうってこともなかったが、できるだけ足音を立てないよう配慮し、僕も土手を降りた。足元が暗いので苦労した。
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