激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
ただひたすら当日高砂に祝いを言いに来る人々に、貼り付けた笑顔のまま対応をしていただけ。正直誰の顔も覚えていなかった。
そんな事情は決して口にできないものの、とんでもない失礼だったと頭を下げた千花に、秘書の顔を崩した宮城が笑って言う。
「あはは、大丈夫。それに披露宴が初対面でもないんだ。覚えてないかな?」
「え……?」
「とりあえず車に行こう。あいつを待たせるとうるさいから」
急に砕けた話し方に驚きながら宮城を見つめる。
社用車だという黒のセダンの後部座席に乗り込んでバックミラー越しに見た運転席の彼は、眼鏡の印象で冷たそうに見えた瞳を和らげ、本来の人の良さが伺える表情で話してくれた。
「俺、颯真とは学生時代の同級生なんだ。もちろん弥生とも。だから森野家にお邪魔したこともあるんだよ」
「そ…っ、そうだった、んですか……」
思いもよらぬところから姉の名前が出て、千花はビクッと身体を竦ませた。
同級生ということは、颯真と弥生の付き合いも知っているということになる。
もちろん、彼の妻になるのが弥生だったはずであるという事実も。
そう考えて、千花はいたたまれない気持ちになった。
姉の恋人だった男の妻に収まった自分は、同級生であり今は秘書として彼を支えている宮城に一体どう映っているのだろうか。