タツナミソウ

11

「深澤君〜!きたよ!」

安心する笑顔で、いらっしゃいと言ってくれる深澤君を見て私の怒りはやわらいだ。
いつものカウンターの1番奥の席に座って、ビールとハイボールを頼んだ。ちょっとかっこよくない?と舞が言って、またなの?と呆れながら返す。このやり取りが楽しくて好きな時間だった。はずなのに、今日は少しモヤっとした。お兄ちゃんが取られるような感覚で嫌なのかな?そう思った。

「はい!ビールとハイボールね!あと、これ俺からのサービスね」

私の大好きな、タコときゅうりとキムチを混ぜたやつとお刺身の盛り合わせが出てきた。
今日は何があったのと言わんばかりに両手で頬杖をつきながらこちらを眺めてくる深澤君。口パクで今日はダメと両手の人差し指で小さくバツを作りながら答えた。頭を前後に振りながら、私達から見えない所に行った。

「えっと、とりあえず乾杯しよ!」

どうしたの?何があったの?色々聞きたかったけど、何から聞いていいのかわからなくて、そもそも聞いていい事なのかすらわからなくて、動揺を隠したくて目の前のお酒に頼った。声の大きさ、目線、態度、明らかにおかしい私を見て舞が笑った。スマートにできない私カッコ悪いな。でも、今はどんな理由でも舞が笑ってくれた事が嬉しくて、一緒に笑顔になった。
舞は、腰に手を当てて喉をゴクゴク言わせながら一気に飲み干した。ゴンっと、ジョッキグラスを置く音がお店中に響き渡った。いつもカシオレとかピンクグレープフルーツサワーとか可愛い系?のお酒しか飲まない舞がハイボールを頼んだのですらびっくりしたのに、そんなに勢いよく飲むと思っていなかったから一瞬固まってしまった。そして、おじさんのように「ぷは〜。うめ〜。」と上唇に水滴を残しながら舞が言った。手の甲で唇を拭ってこちらを見た舞が、とても可愛い笑顔で微笑んだので、思わずドキッとしてしまい固まっていた体が溶けた。

「よし!今日はいっぱい飲むよ!付き合ってよね!!」

舞はそう言って大きな声で深澤君を呼び、またハイボールを頼んでいた。心配そうにこっちを見る深澤君を視線に入れないようにするのが必死だった。

「あのね、、。」

2杯目が半分くらいなくなった時に舞が話し始めた。
< 71 / 122 >

この作品をシェア

pagetop