恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~
(この人、こんな顔もするんだ。仕事でどんなにトラブっても、いつも冷静沈着な感じでトラブルを解消しちゃう、すごい人だと思っていたんだけど――)

「だって佐々木先輩言ったじゃないですか、仕事が恋人って。ずっと出逢いがなかったら、そういう機会に恵まれなかったんじゃないかと思ったんです」

「なんだそりゃ。それ以前の出逢いを考えなかったのかよ……」

「あとはイケメンすぎて隙がないから、会社にいる女子社員たちも、おいそれとは近づけなかったですし。そういうリアクションをするということは、童貞じゃなかったんですね。すみません」

 小さく頭を下げて、きちんと謝った。そんな私に、佐々木先輩は視線をあらぬ方に飛ばして、面倒くさそうに口を開く。

「俺にだって恋人くらいいたさ。長くは続かなかったけど」

「そうなんですね。それでお相手の女性は、どんな方だったんですか? 別れたきっかけは?」

 ビール片手に、佐々木先輩に質問を繰り出す。会社で見ることのできない顔を見たおかげで、彼への興味がどんどん増していった。

「さっきからグイグイ突いてくるな。おまえはどこぞの、芸能リポーターなのか?」

 佐々木先輩は眉間に深い皺を刻んで不快感を露にしたけど、私は怯むことなく言の葉を紡ぐ。

「せっかくこうして、佐々木先輩とお近づきになれたんですから、相手のことを知りたいと思っちゃ駄目でしょうか?」

「だったら松尾も白状しろよ。三ヶ月前に別れた彼氏のこと!」

「うわぁ、そう切り替えしてきたか。やっぱり佐々木先輩は容赦ないなぁ」

「松尾ほどじゃない。俺のはまだ可愛いほうだぞ……」

 メガネの奥の目を糸のように細めて、私をじっと見つめる。突き刺すようなそれから逃げることができそうにないので、きっと私の話からしなければならないだろう。
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