皇妃様は仮面作家~隣国に嫁いで夫に1年塩対応されてましたが夫は私の書いたお話に沼落ちしたそうです~
 北の大国であるヴァイルデン帝国において、わたしの母国は端っこにくっついているちっぽけな小国だ。

 そんなところから嫁いできた人間が、一瞬で皇妃として周囲の貴族たちと打ち解けられるかといったら、答えは否。

 皇妃は小国出身の田舎娘だと揶揄されたところに、陛下がわたしをほっぽり出してあちこち遠征に行っている状況が重なった。
 当然高位の貴族たちにはなにかと嫌味も言われるし、蔑ろにされたりもする。
 時には「陛下がいないのをいいことに、愛人を囲っているのではないか」という噂が出たこともあった。

(まぁ、あの時の噂はいつの間にか聞かなくなってたけど……)

 しかしながら、わたしとしてもいつまでも軽んじられたままでいるわけにはいかない。
 この国に嫁いできた当初はそれを悲しいと思うこともあったけれど、一年も皇妃として暮らしていればちょっとずつ肝が据わってくる。
 崇め奉られたいとは思わないけれど、皇帝陛下の妻として恥ずかしくない程度の品格を身につけたかった。

 そこでわたしは、ルネにお願いをしてこの国の上流階級の作法を再度勉強しなおした。
 メルトワーズではただ「覚えるように」とだけ言われてきた作法も、どういった経緯で、どんな流れの場合にその動きをするのかを関連付け、更にはそれにまつわる歴史も勉強した。

「そういえば、シトリノーゼ侯爵夫人からお手紙が届いておりますよ。……例の件で、ぜひリリア様を経由してあの方に届けていただきたいと……」
「シトリノーゼ侯爵夫人……またお手紙を? まぁいいけど――あの方も熱心ね」

 正直なことを言うと、一年で全ての作法が身につくほど帝国の歴史は浅くない。
 ただ、完全な付け焼刃で嫁いできた時に比べたら随分とマシになったとは思う。
 そういった涙ぐましい努力が実を結んでいるかはまだよくわからないが、徐々に声をかけてくれる貴族女性たちも増えた。

「侯爵夫人はお若く、流行にも敏感な方ですから。ご友人方にもたくさん布教されていると聞きました――これでまた忙しくなりますね、リリア様!」

 ニコニコと表情を綻ばせるルネに、わたしも笑いかける。

 公務もなく、仲のいい友人もいない――ほとんど王城の奥でぼんやりしている生活は、わたしにとってかなり退屈なものだった。
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