魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 レインが「魔力が枯渇した」と言って、魔物討伐から戻ってきたのは十日程前。とりあえず魔力回復薬などを渡してみたが、それでも魔力が回復しなかった。少し休めば魔力が戻るかもしれない、と言ったが、次の日も魔力は戻っていなかった。
 魔力が回復しない、ということなど今まで聞いたことがない。
 父親が生きていたら相談にのってくれただろうか、と今は亡き者にさえ頼りたくなる現実。

「ライト。君は私を何だと思っている?」

「妹の魔力にしか興味が無い、ど変態」

「その言葉には二つ間違いがある」

 トラヴィスは右手の人差し指と中指を立てた。

「一つ。私は、レインの魔力にしか興味が無いわけでは無い。レインという女性に興味がある。それから二つ目。私はど変態ではない。いたって普通の成人した男性の反応であると思っている」

 だから、真面目な顔でそんなことを言われても、とライトは思うのだが。

 ライトは再び机の上にドンと両手をついて、身を乗り出した。

「トラヴィス。悪いことは言わない。妹との結婚はあきらめてくれ」

 トラヴィスも机の上にドンと両手をついて、腰を浮かせた。

「なぜだ」

「お前は魔導士団長という立場にある。だが妹は、すでに魔力が無くなった。すぐには魔力の回復は見込めない。だから、元魔導士という肩書になる。そんな二人が結婚したら、周りがなんて言う?」

「周りになんて言われようが、関係ない」

「お前は関係無くても、レインは気にする。今だって気にしている。婚約した当初から気にしている」

「そう、なのか?」
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