魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
21.幸せになれよ
 次の日。祖母が帰ってきたタイミングでトラヴィスを紹介すると、祖母は目を細めて。
「父親に似た人を好きになるというのは、本当だねぇ」
 と笑っていた。

 トラヴィスはすぐに王都へと戻ると言う。何しろ休暇が五日しかないから。移動だけで、回復薬を使ったとしても丸っと一日以上かかるから。

「次は必ず迎えに来る」

「はい、お待ちしております」

 トラヴィスだって、本当は今すぐにでもレインを連れて帰りたい。だが、彼女は今、薬師として修業中の身。それを中途半端に放り出して戻ることはできない、と言う。
 このような責任の強さを持ち合わせているところが、彼女の魅力的な面の一つでもあるのだが。

「トラヴィス様。あの、お母様からいただいた回復薬は私の方で預かりますので。もし、帰りに回復薬が必要になったらこちらを」
 レインが小瓶を二本手渡した。
「これは、トラヴィス様のために作ったものですから」
 彼にとってはレインのその気持ちが嬉しい。本当に今すぐにでも連れて帰りたい。

「ありがとう、レイン」
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