魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 ライトは魔法研究所の所属だ。魔導士団に入団しなかったのは、父親と比較されることが嫌だったことも原因の一つではあるが、純粋に魔法についての研究がしたかった、というのもある。
 だから、レインの魔力が無限大からゼロになった、つまり枯渇したということを研究所の方で調べたいと思っていた。それだけの権力もライトにはある。

「ライト。頭を上げてくれ」
 トラヴィスは穏やかに言った。

「トラヴィス?」

「ライト。悪いがレインを魔導士団から退団させるつもりはない。それに、婚約も解消しない」

「トラヴィス」

「ライト。できればレインに会わせて欲しい。会って話がしたい。あれから彼女は、ずっと休みをとっている」
 そう。あれ以降、彼女はこの魔導士団の方の仕事を休んでいる。

「そうだ。俺が屋敷で休ませている。今、体調も悪く伏せっている」
 それは嘘ではない。あれ以降、彼女はベッドから抜け出せないでいる。

「そうか。私はまた、魔物討伐に赴かなければならない。そこから帰ってきたら、彼女に会わせてもらえないだろうか」

「わかった。だが、次に妹と会うときには、婚約解消の手続きをして欲しい」
 ライトはトラヴィスの目を見た。

「私の意思は関係無いのか?」
 トラヴィスの目は悲しそうに揺れている。

「そもそもお前は、本当にレインのことが好きなのか?」

「今更、何を聞く。私がどれだけ我慢をしたと思っているのだ」
 悲しそうな眼は力強く揺れる。

「そうか……。やっぱりお前は、ど変態野郎だ」
 ライトは、くるりと回れ右をして、その部屋を出て行った。

 残されたトラヴィスは椅子の背もたれに限界まで寄りかかって、天井を仰いだ。
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