魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「それから、お嬢様自身の身体にも変化がありまして」

「変化?」
 思わず尋ねる。
 マレリアは頷く。
「最近、ぐっと大人びたといいますか。体つきも丸みをおびてきたといいますか」

「つまり、女性らしくなってきた、ということか?」

「はい。ですが、その成長が急激すぎるかと」

「そうか。今は気付かなかったが」

「あの。旦那様」
 言いにくそうにマレリアは一度口をつぐんだ。

「なんだ。遠慮せずに言うがいい」

「お嬢様の婚約の件は?」
 まさか彼女からそれを聞かれるとは思っていなかった。

「それは。トラヴィスが遠征から戻ってきたら、破棄させる」

「そうですか。それを聞いて安心いたしました」

 ライトは眉根を寄せてその侍女を見た。

「正直に申し上げますと。私もお嬢様とトラヴィス様の結婚に反対している者の一人です」

「そうか。奇遇だな。俺もだ」

 マレリアは黙って頭を下げた。

「少し、レインと話をしたいのだが。大丈夫か?」

「はい。今は気分が良いようです。それから、今日から一緒に夕食をとれるかと思います」

「わかった。では、そのように準備を頼む」
 マレリアはもう一度頭を下げると、その場を離れた。ライトはレインの部屋へと戻る。

「お兄様、お話は終わったのですか?」
 レインは枕を背中にあて、ベッドの上で上半身を起こして、本を読んでいたようだ。先ほどは横になっていたから、気付かなかった。だが、今ならマレリアが言っていた言葉の意味がなんとなくわかる。

 ライトはベッドの脇に椅子を持って来て、そこに座った。

「気分はどうだ?」

「ご心配おかけして申し訳ありません。大分、よくなりました」
 レインは読みかけの本を閉じて、脇に置いた。

「そうか」

「あの。魔導士団の方は」

「休みの連絡をしてあるから、心配するな」
 ライトは微笑を浮かべて答えた。それにレインも少し安心したように、笑みを浮かべる。

「はい。ですが、私の魔力が」

「戻っていないのか?」

 彼女は頷く。

()てもいいか」

 頷くと、レインはそっと両手を差し出した。
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