魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 研究所メンバーの試してみたいこと。恐ろしい予感しかしないのは何故だろう。

「だから、トラヴィスが留守の間。魔導士団の方はお前に頼みたいんだよ」

「わかりました。頑張ってみます」

「それから。恐らくだが。今日は、トラヴィスは帰ってはこないだろう」

「え」
 思わず目を見開くレイン。それと対照的に嬉々とした表情を浮かべているマレリア。

「どうした? 寂しいのか?」
 ライトは思わず妹に尋ねていた。

「いえ。それをトラヴィス様が素直に受け入れてくれるのか、ということが不安でして」

「そこは俺に任せろ」

「よろしくお願いします」
 レインが頭を下げると、そこで彼女のストールがはらりと落ちた。その白い肌に残る事情の痕をライトが見逃すわけがない。レインは慌てて、またストールを巻き付ける。

「マレリア」
 乾いた声で優秀な侍女の名を呼ぶ。
「お前が言っていたこと。俺はようやく理解ができたようだ」

 彼女は黙って頭を下げた。

「レイン」
 兄は慌てている妹の名を呼ぶ。
「お前、幸せか?」

「はい」
 即答。

 結局のところ、周囲がどれだけ心配してどれだけ騒いだとしても、本人の気持ちというものが優先されるわけで。
 そんな笑顔を見せつけられたら、ライトとしては。
「よかったな」
 としか言いようがない。

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