魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
26.それは難しい問題だな
 遠征に行っていた御一行様が戻ってきた。留守番をしていた魔導士たちは呼び出される。執務室で書類の仕分けをしていたレイン。誰かが駆けつけてくる足音で顔をあげる。

「レイン」
 兄だ。
「トラヴィスが、やられた」

「え?」

「お前、魔力が戻ってるんだろ? とりあえず、トラヴィスをなんとかしてくれ」
 兄に連れられ救護院へと駆けつける。ここはいつ来ても血の匂いがする。
 毎度のことながら、ギリギリまで粘るのではなく、ある程度余力を残して戻ってきて欲しいものだ。
 一番奥の部屋に彼はいた。

「トラヴィス、さま?」

 横たわっている彼には、右腕が無い。きつくそこを縛られている。

「お兄様。トラヴィス様の腕は?」

「魔物にやられた」

「ではなくて、持ってますか?」

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