魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 ライトは先ほど届いた手紙を手にした。それは祖母の元にいるレインからの手紙。それをゆっくりと広げる。
 毎日、どのようにして暮らしているのかということを綴られた内容。驚いたことに、友達ができました、と書いてあった。どんな友達かと思ったら、七歳と五歳の姉妹らしい。どんなことをして遊んだとか、どんなことを話したかとか。そんな些細なことが書いてあるにも関わらず、その文面からは彼女が楽しんでいることと、とても喜んでいることが伝わった。

 さて思い返せば、こちらに彼女の友達と呼べるような人物はいたのだろうか。彼女からそのような話を聞いたことがない。授業の内容がどうとか、どんな本を読んだ、とか。そういった話が主だったような気がする。

 ライトはレインに代わって彼女の退団届を魔導士団に出したが、それは受理されなかった。トラヴィスが退団ではなく、休団という扱いにしてしまった。まさしく職権乱用である。
 それにも関わらず、なぜレインが魔導士団を休団しているのか、という問い合わせは、ライトのところには一件しかなかった。答えるのも面倒くさいので、ライトとしてはちょうどいいのだが、魔導士団にとってレインはその程度の人物だったのか、とも思えてくる。その中で魔力枯渇ということが知られたのであれば、ということを想像すると、なぜか背筋がぞっとした。
 ちなみに、その一件に対する回答として、レインの休団理由は体調不良。一般的な理由であり無難な理由で答えておいた。

 そこでライトため息をついた。ため息をつきたくなる原因はレインの手紙だ。ご丁寧にトラヴィス宛ての手紙も書いたらしい。これをトラヴィスに渡すべきか否か。
 渡さないわけにはいかないだろう。だからといって、勝手に読んでいいわけでもない。気は乗らないが、明日、トラヴィスに渡してやろう、と思った。
< 52 / 184 >

この作品をシェア

pagetop