魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 ライトはその足で、魔導図書館へと向かった。魔導図書館とはその名の通り、魔導関連の本が集められた図書館。ここに足を踏み入れられる者は魔導士団か、魔法研究所所属の者だけ。さらにその地下には禁書庫があり、ここに入ることができるのは魔導士団でも上級魔導士以上、研究所でもそれなりの成果を上げていて所長に認められた者だけだ。
 ライトは受付で許可証を見せると、禁書庫の鍵を預かった。禁書庫には誰もいない。ここに訪れる者は選ばれし者だけであり、その選ばれし者たちもそんなに頻繁に足を運ぶわけでは無い。だから、他に人などいるはずがない。
 書棚の前に立つとベイジルの名前を探す。著者別に並んでいるはずだから、その彼の名前の頭文字付近の論文を探す。だが、見つからない。仕方ないから、先頭から探し始める。わざと指で追い、見逃さないように、と。
 途中で、自分の父親の論文が目に入ってしまい、なぜか緊張が解けてしまう。そして、最後まで探し終えた時、やはりベイジルの名前が一つも無かったという事実に直面する。
 だが、見逃している可能性もある。そう思い、もう一巡する。だが、見つからない。でも、もう一度。と、五回ほど見直してしまった。これだけここを探しても見つからないというのは、ここには無いのだろうという諦めが沸き起こる。

 仕方ないのでライトは別な論文を探すことにした。特に誰が書いた論文、というわけではない。どちらかというとテーマ別。魔力枯渇に書かれているもの、それから成長について書かれているもの。それらを読んでみたい、と思った。
 ライトの研究は、属性混合の研究がメインだった。純粋に魔法属性のみに特化している研究。だから、魔導士と魔力というテーマについては、ほとんど目を通したことがなかった。魔法研究所に所属している者というのは不思議な人間が多く、自分の興味あるテーマに関しては貪欲に取り組むのだが、興味の無いものは一切関わろうとしない。むしろ、一般常識に欠けているような人間も多い。それが認められるのが研究所のいいところかもしれない。

 とりあえず、ライトは五つほど論文を手にした。この禁書庫内の資料は、書庫外への持ち出し禁止だ。だから、ここで目を通すしかないのだが。
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