魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 もう一つ。成長と魔力についての論文。著者名は、アーロン。つまり、父親の部下であり、前魔導士副団長であった彼だ。
 父親が亡くなった魔物討伐で、彼もまた大けがを負った。普通の回復魔法も回復薬も効かないような大けが。それは、部位の欠損。確か、左腕と聞いていたような気がする。部位欠損の回復ができる魔導士は、当時は父親だけだったはずだと記憶している。その父親が亡くなったのであれば、部位欠損回復が行える魔導士は不在だった、ということ。
 つまり、その状態での魔導士団への復帰は絶望的であると言われ、魔導士団から退いたはず。
 彼の論文には、身体の変化により、その魔力に変化が現れる者も多い、という記述有り。レインの身体の変化といえば、とうとう大人の女性として子を宿す準備ができた、ということくらいしか心当たりがなかった。だが、彼女の魔力枯渇はそれの後であることを考えると、それと魔力枯渇は関連しているのかもしれない、とも思えてくる。
 アーロンの論文は、三回ほど読み直した。今のレインの魔力の状態を説明してくれる内容に一番近い。それと同時にアーロンは元気だろうか、とも思う。パタリと論文を閉じて元の場所に戻すと、アーロンに会いに行こうと思った。
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