魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
16.約束を守ってからだろう
 時間が自由に使えるライトと違って、魔導士団長という立場のトラヴィスはそんなに簡単に魔導士団の仕事を休めるわけではない。しかもカレニナ家からの持ち出しを禁止したベイジルの謎の資料。このベイジルの資料を外に出すのはいろんな意味で危険であるという二人の判断による。
 というと、トラヴィスにとってその資料を解読するための時間がというものは限られてくるわけで。

「だから、毎日、我が家で寝泊まりか」

 すっかりカレニナ家の客人として扱われているトラヴィス。そんな二人を「まぁまぁ」とニコラが宥める。
 トラヴィスは、昼間は魔導士団の仕事、そしてライトの家に帰宅して、そこからベイジルの資料の解読、と、なかなかハードな生活を送っていた。
 魔導士団の仕事が休みの日は、ライトが不在であってもカレニナ家の書斎を占領しているようだ。
 ニコラがお茶を出すと、トラヴィスは御礼を言ってからそれに手を付ける。ニコラが何かしら自分に期待をしているのだろうということを感じとってはいた。でも、その期待を、あれ以降口にしないのは、ニコラなりの優しさなんだろうな、とも思っていた。
 トラヴィスは気付いた。ベイジルの資料はよくできている。特に薬草のレシピに見えるそれだが、やはり薬草の知識が無いと解読ができない。だから、ニコラに教えてもらうことも多かった。
 こういった、こつこつとした解読については、ライトよりトラヴィスの方が向いていた。努力で魔導士団長まで上り詰めた男だから、こつこつと解読する作業は苦では無いらしい。それに引き換え、ライトは天性の魔導士。壁にぶつかると、乗り越えるのではなくぶち壊すタイプ。仕方ないからライトはその壁になりそうなところに印をつけ、それをトラヴィスへ任せるという荒業に出る。
 だが、その二人の分担が意外にも功を奏しているようだった。
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