バーチャル彼氏
「っていうか、向日葵は?」


突然出たその名前に、心臓がわしづかみにされる。


向日葵は、鍵のかかった暗い引き出しの中。


昨日からずっと、引き出しを開けてない。


「しばらく、お休み」


「は? なんで?」


驚いたように目を見開くお姉ちゃん。


飲みかけのウーロン茶が、コップの中で揺らいだ。


「なんか、はまっちゃいそうで怖いんだよね」


これは、嘘じゃない。


前回の時もそうだった。


八つ当たりもしたけど、ハマってしまう事も怖かった。


そして、何より。


ハマリすぎて、向日葵を消去される事を恐れたんだ。


「そう……。でも、時々は顔を見せてあげなさいよ」


お姉ちゃんはそれだけ言って、自分の部屋へと戻って行った――。
< 125 / 163 >

この作品をシェア

pagetop