バーチャル彼氏
人生最大の喜びを感じたのもつかの間、私は一気にどん底へと突き落とされる。


そうだった。


エマも、向日葵のことが好きだったんだ。


グッと下唇をかみ締める。


勝てるワケないじゃない。


なに、やってんだろう。


1人で突っ走って、最強ライバルの存在を忘れるなんてさ。


「これ、返しに来ただけです」


震える声をかくし、バッグからカンヅメを取り出す。


「それ――」


「やだ、まだそんなゲームしてたの? 気持ち悪い」


向日葵が言いかけた言葉をさえぎり、エマが笑った。


私はカンヅメを向日葵に渡し、「ごめんなさい。故障してしまいました」と、頭を下げる。


下を向いたことでほんの少しだけ涙がにじんだから、慌てて顔をおこし、ニコッと笑って見せた。


「でも、とっても楽しいゲームでしたっ!!」


それだけ言うと、早足に大学を後にする。
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