異国の地での濃密一夜。〜スパダリホテル王は身籠り妻への溺愛が止まらない〜
 三月頭、東京に私とお母さんはこのマンションに引っ越してきた。仕事は辞め、楽団は一時休団している。無事に子供が産まれて落ち着いたらまた戻っておいでと楽団の皆んなに祝福され妊娠でホルモンバランスが崩れているのか最近の私は涙腺が緩い。嬉しくて大泣きしながら音楽室を去った。


 私と総介さんは203号室、お母さんは隣の部屋の204号室に。総介さんが気を利かせてくれ母を隣の部屋にしてくれたのだ。高層ビルの中の二階と言うのも妊婦の私に高層階は大変だろうし、子供が産まれて外に出ることが多くなるのだから下の階の方がいいだろうと、それに203号室だなんて初めて会ったあの日の私のホテルの部屋番号、これは偶然なのか必然なのかは聞いていない。なんとなく後者な気がするから。


 日当たりの良い南側のベランダに大きな窓。ベランダは意外と広くて子供用プールくらいならおけそうなくらいの幅がある。白いフローリングなので三十畳もある広いリビングが更に広々と見え、家の中で鬼ごっこできるくらいだ。カウンターキッチンに六人がけの大理石柄ダイニングテーブル、コの字型のふっかふかなグレイのソファーは座ったら暫く動けなくなるほど座りこごちが良い。部屋も私と総介さんの寝室に子供部屋が二部屋、衣装部屋と正直言って今までのアパートとの差が凄くてこのマンションに引っ越してきて二週間経った今でもまだ慣れない。隣に住んでいる母は一人だから尚更だと思うが、昼間は基本母はうちで一緒に過ごしている。鬱の症状もかなり良くなり今は薬も飲んでいない。本当に全てが順調で怖いくらいだ。


「今日は楽しみだなあ」


 今日は久しぶりのデートなので正直少し気合いをいれて服も選んだし、メイクも丁寧に、髪の毛はお守りのようでもあるバレッタでハーフアップにまとめた。つい鼻歌を歌ってしまうほど浮かれている。


 お腹周りがゆるっといている黒のワンピースに三八デニールのタイツを履き冷え対策は万全だ。マンションを出る時はグレイのロングコートを羽織る予定だ。足元はもちろん転ばないようにペタンコのパンプス。

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