クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす


 結局、和優は父親にも自分からは何も連絡していない。

『離婚』しようと決心していた筈なのに、夫に愛人がいるとわかったのに…
未だに踏ん切りがつかないままだった。


あれから二月(ふたつき)が過ぎ、三月(みつき)が過ぎた。 


父からも柊哉からも何の連絡も無いのが不気味だったが、
和優は逆に、寿命が延びた気分だった。

少なくとも離婚へのカウントダウンは始まっていない。



「和優ちゃん、壁紙決まった?」

「あ、妙子さん。いらっしゃい。」

和優は今、水口夫妻の家に居候している。

甲府の篠塚夫婦が経営している『パンの店』の姉妹店を
館山の『水口パン』と共同で出店しようと準備を進めていた。

丁度、駅の近くに空き店舗が見つかったので思い切って購入したのだ。
夏にはレジャー客が通る道だし、学校や駅も近いから条件の良い物件だった。



和優一人が職人では、天然酵母のパンを作り続けるには心もとないが
篠塚夫妻からの申し出で、何人か助っ人に来てくれる事にもなっていた。


この夏には間に合わなかったが、秋のオープンに向けて順調に工事は進んでいた。

和優は明るいクリーム色の壁紙を選んだ。
優しい雰囲気に包まれた、甲府の店のような温もりが感じられる店にしたかった。

館山に来てから、出店計画に忙しくしていても水口家で過ごしていても
和優の心にはいつも柊哉の姿があった。

あの厳つい体格も硬い喋り方も、今では、ただ懐かしい。





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