クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
感じるということ


 アルバイトの女子高生が言っていたとおり、客は途切れなかった。
麻美がカフェにやってきて、賄いの変わりに焼きたてのパンを差し入れてくれた。
カウンターの中でひと口頬張ると、小麦の香ばしさが広がった。

「美味しい…。」
「でしょう、うちのダンナ様のパンは最高なの。」

表面は硬そうだが、意外にさっくりしているし、
中はふわふわしているようで、噛み応えがある。

麻美とパンの種類についてお喋りしていたら時間が経つのが早かった。
午後1時前になると、パン工房に10人程が集まって『パン教室』が始まった。

予約が必要らしく、和優は参加出来なかったが
借り物のカフェエプロンを着けたまま関係者のように工房に入って見学してみた。

『メモを取りたいくらいだわ。』

篠塚の説明はわかりやすかった。
企業秘密だろうに、自分が何から発酵させて酵母菌を作っているか、
それで出来上がった酵母菌をどう扱うかまで話してしまっている。

実際に捏ねる前には、粉のふるい方から丁寧に教えていた。
和優に生地を捏ねる力はないが、それさえ機械に任せれば何とか出来そうだ。

『来週から、教室に通いたい!』


< 56 / 125 >

この作品をシェア

pagetop