【SR】秘密
小さな包みを受け取って、ボーイに注文を済ませる。


『桜ちゃんに、ヤマトさんからドンペリ頂きました~!
ハッピーバースデー!!』


馬鹿でかい声でマイク越しにボーイが叫ぶ。


誕生日という使い易い口実は、客を一気に呼び込むのに一番力を発揮する。


あたしはあっちへこっちへとテーブルを飛ばされた。


店内の不穏な熱気はいつもの比じゃない。


回数来ない客でも、今日は皆プレゼントを持って来てくれる。


キャバクラはNGだという友人を無理矢理引っ張って来てくれる人もいた。


その人は大層な恐妻家らしく、半分が青々と繁っている顔を近付けて、友人に角が立たない様に俺を帰らせてくれとあたしに耳打ちする。


苦笑いしながら指名客を説得すると、この寒いのにハーフパンツを履いた男は文字通り飛び出していった。


そんな客の相手をしながら、真夏のような店内で汗をかくグラスの面倒に灰まみれのテーブルを拭き、トイレの近くなった客へ毎回渡すおしぼり。


ラスト近くは手がふやふやになっていた。


「偉いな桜。いつもながら感心するよ」


あたしの事より仕事ぶりを褒める貴一さんの席にも、この何時間の間でついていられたのも10分程度。


「飲んでただろう、平気か?」


背中に伝う冷たい汗を感じてぎゅっと両手を握りしめる。


「…………平気よ」


心配そうな貴一さんを横目に、呼ばれて席を移動する。


「お疲れ、桜。さっき言ってたお願いって?」


配送業で日に焼けたヤマトが眉を潜める。


「あのね、協力して欲しい事があるの。
聞いてくれる?」


「桜の言う事なら、なんでも」


あたしは、そっとヤマトの耳に顔を近付けた…………。
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