【SR】秘密
そういう儚い夢を見せてくれる。


嘘だとはわかっていても。


忙しそうにしながらも生き生きとした桜に労りの気持ちを込めて微笑む。


「気にしなくていいよ。俺は独り者だし、乗りかかった舟だ」


嬉しそうに微笑む桜。


「ありがとう」


その言葉だけで、年甲斐も無くときめいてしまうんだ。


赤く染まった桜。


…………友人からの連絡は、まだ来ない。



次々と客を出口まで見送り、最後の客の俺の元に戻ってくる桜。


「今日はよろしくね。もう遅いのに大変だけど…………」


上着に腕を突っ込みながら出口へ向かう。


「あぁ、車で待ってるから」


「うん、着替えたら行くね」





……もう、夜中になるとだいぶ冷える。


アイドリングストップを無視して車内を暖めていると、桜が助手席に乗り込んでくる。


ほんのさっき友人から聞いた報告は、もう少し後にする事にした。


「お疲れ、桜」


頬を染めてにっこりと笑う顔には、達成感が滲み出ていた。


「今日はありがとう、貴一さん」


山ほどあるプレゼントの塊を、後部座席に追いやってからシートベルトをつける。


それを確認してからアクセルを踏み込んだ。









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