俺の言うとおりにしてください、お嬢様。




「わっ、いててっ、」



そんなわたしは針が刺さってしまった指から小さく血が溢れてしまって。

そう、言われた通りミシンは諦めて手縫いで練習用のサンプルをチクチク塗っていたのだ。


普通ならここまでなる前に執事が止めるのが基本。

けれど樋口はもう脱け殻と化していて、明日からは来なくなるだろうと。


「大丈夫ですか」の一言もない。


───と、そんなわたしたちの近くに立ったSランクエリート執事。



「樋口、だったか」


「は、はい…」


「邪魔だ。執事としての基本すらできないなら下がってろ」


「っ…、」



トンッと押されただけで樋口は情けなくもグラッと体勢を崩した。

それを気にすることなく、わたしの目線に合わせてくる。



「とりあえず簡易的な応急措置を失礼いたします、エマお嬢様」


「わっ、あ、…ありがとう…」



また優しい力で手を添えられて、思わず一瞬だけ泣きたくなった。

だってこの人だけだもん…こんなに優しくしてくれるの…。


いつの間に出したのだろう絆創膏。

気づいたときには綺麗に巻かれていた。



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