俺の言うとおりにしてください、お嬢様。




だ、抱きしめる……?わたしを…?

今……?えっ、どうして?


そう戸惑っているうちに間を詰められてしまっていて、だけどわたしも逃げようとはしなかった。



「わっ、」



ふわっと抱きしめられた腕の中は、ハヤセのものとはまた違った温かさ。


最初は悪魔みたいな奴で怖くて怖くて、嫌いで嫌で仕方なかったけど。

でも今はこんなにも優しく抱きしめてくれる…。



「ここで普通に生活して、好きな女の子との結婚は味わえたからじゅーぶん」


「さ、早乙女…、」


「好きだったよエマ。早乙女 燐の初恋奪ったとかすごいよお前。
だから勉強ができなくても先生に怒られても、エマのすごさはそこじゃないって俺は思う」



わたしからの返事を求めることなく会話を続けてくれる。

それが彼の何よりの優しさなんだろうと。



「早乙女っ!あのね、わたしがいちばん最初に泣かされたのってハヤセじゃなくて早乙女なの!」


「え、そなの?」


「うんっ!わたしを泣かせた第1号だから早乙女もすごいんだよっ」



彼は嬉しそうに笑った。

ぎゅっと抱きしめて、ポンポンと後頭部をリズム良く叩いてくれる。



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