忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜



「あ、唯香ちゃーん!こっち!一緒に飲もう!」



普段の梨香子さんからは考えられないほどに酔っており、どれだけ飲んだのかとテーブルの上を見ると、そこには何本も空になった数種類のお酒のボトルが。


今も梨香子さんは傑くんの持つワイングラスに新しい赤ワインを注いでいた。



「ほーら、唯香ちゃん、ここ!早く座って!」



口調はしっかりしているし聞き取れる。会話も出来ているからまだギリギリ大丈夫か。


そう考えて「飲み過ぎですよ」と言いながら隣に腰掛けて梨香子さんが手に持つグラスを受け取る。



「あ!唯香ちゃん!それ私の!」


「梨香子さん、飲み過ぎですって。すぐ二日酔いになるんだから、やめといたほうがいいですよ?」


「いいの!結婚式の日くらいハメ外させてー!」


「もう……」



梨香子さんは昔からお酒が強い分、大量に飲んでしまう。そして周りの人に絡みに行ったり飲ませようとしたりとなかなかタチが悪い。しかも翌日には酷い二日酔いに悩まされ、前日の行動を全く覚えていないのだから困ったものだ。


でも特別な日くらい好きなだけ飲みたい。その気持ちはなんとなくわかったため、飲み過ぎないことを約束の上でグラスを返した。


その代わりに新しいグラスを手渡され、そこにたっぷりと注がれてしまったワイン。



「美味しいからすぐ無くなっちゃうの。だからいっぱい入れとくね。早く飲まないと私が飲んじゃうからね!」



……それはまずい。


これ以上飲ませたら、梨香子さんは明日まともに起き上がることすらキツくなるだろう。どんなにお酒が強くても、下手したら飲み過ぎて急性アルコール中毒にだってなりかねない。


まだたっぷりと入っているボトルを見て、手に持つグラスと見比べる。


でもこれ、全部飲んだら私が死ぬコースじゃない?


梨香子さんの隣を見ると、すでに同じ理由で大量に飲んでしまったであろう傑くんは一人で意味も無く笑っている。


梨香子さんと同じように誰かを呼んだのか、スマートフォンを操作してはニヤニヤしていた。


それに引いた視線を送りながらも、梨香子さんに勧められるがままにグラスを口に運んだ。


数分してやってきたのは、見目麗しい男性だった。切れ長の目が、呆れたように二人を見比べた。


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