置き去りにされた花嫁をこの手で幸せに
「悪いな、休み時間なのに。食べたらすぐ行くからさ」

「別にいいよ。気にしないでよ、同期でしょ。奈々美と石垣島行くんだって?いいな。7月なんて最高じゃない?」

「遊びなら最高だよな。でもこの暑い中使われていないホテルだからエアコンも入ってないしやることや考えること多いから楽しくなさそうだよ。プールも水が抜けてるから入らないし、そもそも洗ってないプールの雨水だから汚いだろ。俺嫌なんだよな、潔癖じゃないけど他人との共有も気を許したやつじゃないと無理なんだよ」

「へぇ、加賀美くんはそういうこと気にしないかと思ってた。でも、イケメンの加賀美くんが汚いプールなんてないか。でも他人と共有できないって食べ物のシェアとか苦手ってこと?」

「そうだな。割と苦手だな。自分達の箸で直接だと本当に気を許した家族とかじゃないと苦手かな。取り箸があれば大丈夫だけど」

「そうなんだね」

私は2人の会話を聞き、不思議に思った。
加賀美くんは私がデスクでお菓子を食べていると通りがかりに手を伸ばしてくることがある。
だから今の話を聞いてよく分からなかった。
お菓子は他人の袋に手を突っ込んで食べられるってことなのかな?料理はダメなのにお菓子はいいなんて変なの。

さとかはここぞとばかり加賀美くんを質問責めにしていた。
接点のない加賀美くんと話すチャンスがなかなかないってことはよくわかるけどがっつきすぎなんじゃないかな。
加賀美くんは笑っているけど迷惑じゃないのかな。
さとかがこんなに加賀美くんに興味があるなんて思わなかった。
私と働いているのを羨ましいと言われることはあっても私自身、優越感に思ったこともなく、かえって小姑みたいなことをされるから対抗意識しかもったことがなかった。だから羨ましがられてもそんなことないのにな、と受け流していた。だからこんなにさとかが加賀美くんに話しかけている姿を見て少し驚いた。
私は会話に入ることなく黙々と食べていたがさとかは手が止まったままで加賀美くんに見入っていた。
加賀美くんは苦笑いしながらもさとかの話に相槌を打ち、食事を続けていた。
加賀美くんは私をチラッと見てきて視線に気がついた。

もしかして困っている?

「さとか、食べないと昼休み終わっちゃうよ」

「やだ、本当。つい話し込んじゃったね!」

上機嫌のさとかは箸が進んでいないが私も加賀美くんも半分以上終わっている。
さとかが食べ始めるのを見て加賀美くんはホッとしたような顔になり、また私と目が合うと少し頷いたように見えた。

食事が終わると3人で会社に戻った。
エントランスでさとかとは分かれ、私たちはまた企画戦略室へ戻った。

エレベーターの中で加賀美くんはため息をついた。

「なんかみんな食い入るように質問してくるんだよな。だからあそこでご飯食べてたのにお前らも使ってたなんて。新規開拓しなくちゃダメだな」

「ごめん」

「お前が悪いんじゃないけどさ。あいつも同期とはいえ空気読んでくれたらいいのに」

「ごめん」

「謝るなって。でもしばらく沖縄にかかりっきりだから俺も気分転換になるよ」

私は頷いた。
私にとっても気分転換になるから。
仕事だから不謹慎だとは思うけど、でも加賀美くんのいうように私にとっては気分転換としかいいようがない。しかも期待をかけられた分やりがいまでついてくるなんてこの前最悪なことがあった分と合わせて人生ちゃんと帳消しになるようにできてるんだなぁって思った。
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