嘘は溺愛のはじまり

素敵な時間ほど、終わりはあっけない。

耳に当てたままの小さな機械が、しあわせの終わりを告げた。

伊吹さんはきっと忙しいスケジュールの合間にかけてきてくれたんだろうと思うと、嬉しくなる。


でも……。

そんな貴重な時間を、私に割いて良いのかな?

あの花屋の女性には、電話しないの?

それとも、彼女には先に電話をした?


どう考えたって、私は優先される立場にない。

だからきっと、彼女とはもう話をしたんだろう。

だとしたら伊吹さんが私に電話をしたのは、“飼い犬がちゃんと生きてるかどうか心配”とか、そんな感じの理由だろうか?

伊吹さんの心理はよく分からないけど。


優しくて、暖かくて、でも少し残酷なひと――。


今日もあなたを想って、一日が終わる――。


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