嘘は溺愛のはじまり

「あ、の、伊吹さん……っ」

「……ん、もしかして、お腹、空いた?」

「いえ、そうじゃなくて……」


こんな状況で、空腹なんてどこかへ行ってしまった。

腕枕状態で、ぎゅーっと抱き締められていて……。

呼吸をする度に伊吹さんの匂いがして、くらくらしそうになる。

香水とかじゃない、落ち着く匂い……。


「……結麻さん、あのね」

「は、い」

「こうやって眠ると、すごくよく眠れるから……」


伊吹さんはギュッと抱き締めていた体勢を少しだけ緩めて、私の頭にコツンと自らの頭をくっつける。

か、顔が、近すぎて、目を開けられない……っ!


「これから、一緒に寝て欲しいんだけど、……だめ?」

「……えっ!?」


驚きすぎて思わす目をパチリと開けると、すぐ目の前に私を見つめる伊吹さんの深い瞳と出会う。


「結麻さんには、安眠効果でもあるのかな。すごくぐっすり眠れた。だから……だめ?」


私の表情を窺うように、じっと覗き込まれて……。

断れるわけなんか、ない……。


「あの、……伊吹さんが、よく眠れるの、なら……」

「……ありがとう、良かった。嬉しいよ」



伊吹さんがそれで安眠できるというのなら、私に断れるはずなど、ない。


こうして、どんどん、自分の首を絞めることになっていくのだった――。

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