嘘は溺愛のはじまり
「……何を見よう?」

「伊吹さんは何が見たいですか? 伊吹さんが見たいものがいいです」

「……俺が選んでいいの?」

「はい」

「そうだな、じゃあ……」


伊吹さんがリモコンを操作して、チャンネルを選ぶ。


「これでもいい?」

「え……、は、い。伊吹さんが見たいの、なら……」

「うん、これが良い」


色んなジャンルがある中で、伊吹さんが選んだのは……ホラー映画だった。

……私はちょっと苦手だけど……伊吹さんが見たいのなら……。

私が小さく頷くと、伊吹さんは嬉しそうににっこりと笑った。


ソファに隣り合って座り、テレビ画面へと視線を向ける。

……。

どう、しよう。

私、本当はホラー映画は結構苦手で……。

でも伊吹さんが見たいのなら、と、了承したけど……既に序盤で、無理かも……。

まだ始まったばかりだから凄惨な場面はないけれど、主人公が気づかぬ間にじわじわと追い詰められるようなシーンが続き、私は思わず身を固くした。

それに気づいた伊吹さんが私の手をそっと握り、「怖くなったら、俺にしがみついていいからね?」と優しく囁く。

私はこくりと頷いた。


まさか、主人公と同じく、私も、じわじわと追い詰められているなんて、この段階ではまだ気づいていなかった――。


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