嘘は溺愛のはじまり

「あの……実は」

「うん」

「奥瀬、さんは、……その、実は、高校の時の同級生で……」

「え……?」


絶句した篠宮さんは、ああそれで、と呟いた後、口を噤んだ。


「高校時代はあまり交流も無かったので、私、全然気付かなくて……」

「……他に何か言われた?」

「いえ、とりあえずは、それだけです」

「そう……。もし他にも何か困ったこととかがあったら、すぐに言って下さい」

「困ったこと……?」

「そう、困ったこと。何でも聞くし、必要ならすぐに対応するから」

「ありがとうございます……」

「うん。せっかく作ってくれた食事が冷めちゃうね、ごめん。食べようか」

「……はい」


奥瀬くんのことは、今のところは一応、特に困っているわけではない。

同じ所に住んでるということは特に口止めはしていないけど、奥瀬くんの口ぶりからすると、誰かに言いふらしたりはしなさそうだ。

人事部は個人情報が集まる場所だから、軽々しくそれを口にするのは職務規程に違反する行為だし。

あの奥瀬くんに限って、そんなことするはずがない、と思う。


篠宮さんが私の作った拙い料理を美味しそうに食べてくれるのを眺めながら、ここ数日の怒濤の出来事に、心の中で小さなため息を吐いた――。

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