嘘は溺愛のはじまり

私が篠宮商事に入社して早くも2週間が経った、土曜日の昼下がりのことだった。


「どうですか? 少しは仕事に慣れた?」


昼食を終えて、ふたりで食器を洗いながら会話をしているところだ。

篠宮さんはいつもお皿洗いを積極的に手伝ってくれる。

食事は私が作りたくてやってる事なのにいつも必ず丁寧にお礼を言ってくれるし、きっと私なんかよりずっとお仕事で疲れてるだろうに、こうやってすぐに手伝おうとしてくれるので、すごく申し訳ない気持ちになってしまう。

私が「疲れてるから休んでて下さい」って言ったら「若月さんもだから、おあいこです」って返されて、私が返答に困って終わってしまうのだ。


う~ん、嬉しいけれど、それではダメな気がする。

だって私は部下だし、居候だし、……恋人なんかではない。

こんなに親切にしてもらえる筋合いの人間じゃないはず……。


この甘やかしをなんとかしてやめてもらおうと考えているところで、部屋のインターフォンからチャイム音が鳴り響いた。

モニターを覗き込んだ篠宮さんは、なぜだか大きなため息を吐いている。

モニターには、とても品の良さそうな年配の女性が映し出されていて……。

篠宮さんはもう一度ため息を吐いた後オートロックの開錠ボタンを押して「ロックを解除しました、どうぞ」とインターフォンで伝える。

< 46 / 248 >

この作品をシェア

pagetop