嘘は溺愛のはじまり

――違う違う、これは、“仕事”だ。

伊吹さんにとって仕事なら、私にとっても仕事でなければならない。

私は伊吹さん――いや、篠宮専務の部下なんだから……。


車から降り立つ時に手を取った状態のまま、テーマパークの中を歩いて行く。

日曜日なので、園内は家族連れやカップルで賑わっていた。

……私と伊吹さんも、端から見ればあんな風にカップルに見えるのかも知れない。

仕事だなんて思ってみても、繋がれた手から伝わる伊吹さんの手の温もりがどうしても気になってしまって、とても仕事と思い込む事なんて無理だった。


「……なんだか難しい顔をしてるけど、大丈夫? 気分でも悪いですか?」

「えっ? あ、いえ、違います、ごめんなさい大丈夫ですっ。ちょっと、色々考えちゃって……」

「いろいろ……? どうしたの?」

「えっと……」


まさか頭の中で考えていたことを口に出すわけにはいかず、苦笑いするしかなかった。


「大丈夫です、なんでもありません」

「ならいいけど……。今日はデートだから、楽しんで」

「はい」


……罪深い人だ。

デートであるはずなんてないのに。

だって、伊吹さんは――

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