嘘は溺愛のはじまり

そうこうしているうちに始業時間になったので、私は諦めて仕事に没頭することにした。

野村さん、私、彼氏いませんからね……!?


昼休憩の時にも野村さんに何度か「彼氏ってどんな人?」と攻撃を受け、そのたびに「いません」と繰り返し、最後まで納得して貰えないまま、終業時刻を迎えた。

……な、長かった。


「若月ちゃん、お疲れ様ー。彼氏によろしくねー」


手を振って先に帰って行く先輩に頭を下げ、私も帰り支度を始めた。

今日は伊吹さんは取引先との会食で帰りが遅いので、私は久しぶりに、あのカフェに寄って帰ろうと思っていた。

普段なら定時を少し過ぎた頃に会社を出てスーパーで夕飯の食材を買って帰り、二人分の夕飯作りをするところだけど、今日は伊吹さんの夕飯は必要ない。

ひとりだし適当に残り物で作れば良いかな。

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