嘘は溺愛のはじまり

この場所に置いて、自分を戒めよう。

身の程知らずの、自分を……。


伊吹さんも、随分と罪な人だ。

いや、伊吹さんは何も悪くない、もし悪いとすれば、それは間違いなく、私だ。

恋人がいる人に横恋慕してしまった挙げ句、自分の感情を優先し、そ知らぬ顔して傍にあり続けようとする、醜い心の私が悪いのだ。


あの女性とディナーにでも行ったのだろうか。

この花束はあの女性に作って貰った花束に違いない。

思わずふたりが仲良くデートをしている様子を想像してしまい、また涙が溢れそうになるのを必死に堪える。


「……結麻さん?」


花を見つめたまま黙り込んでしまった私に、伊吹さんが優しく声を掛けた。

気付かれないように小さく息を吐いて、笑顔を顔に貼り付ける。

私はちゃんと、笑えてるだろうか……?


「私の、好きな色です。ありがとうございます」


この言葉に嘘はない、好きな色が詰まった、本当に綺麗な花束だ。

伊吹さんのこの優しさが、あまりにも悲しい。

きっと私の好きな色をあの女性に告げて、一緒に選んでくれたんだろう。


彼女は自分の恋人が仕事も家も無くした女の世話をしていることを、どう思っているんだろう……?

可哀想な子だと思ったりしているのだろうか。

だとしたら、彼女は伊吹さんと同じぐらい優しい人なのだろう。

伊吹さんが心を寄せる人だ、きっととても優しくて素敵な人なんだと思う。


よろこんでくれたなら良かったです、と微笑む伊吹さんは、やっぱり今日も完璧に美しい。


もう少しだけ……、どうかあともう少しだけでいいから、傍にいさせて下さい――。

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