日溜まりの憂鬱
 というより、そういう意識がない人間を目の前にして持論を展開する。
 確かに野田さんは遣り甲斐を持ち、趣味を楽しんでいるから見た目も溌剌としている。

 けれど、彼女に会うといつだって自分がダメ人間のように思えてならない。
 遠回しに「菜穂ちゃんみたいな生き方はどうかと思う」と否定されているような気になってしまうのだ。

「野田さんは野田さんの生き方でいいんじゃない? 別に結婚だけが全てじゃないと思うよ」

 結婚して面倒な人間関係というしがらみから解放された自分が、結婚生活に否定的な発言をするのは妙な気色だった。だがこうでも言わなければ話は延々と続く。もう帰りたい。今すぐにでもここから立ち去りたい。

「そうだよね。菜穂ちゃんのそういう考えを聞くと気持ちが楽になるんだよね」

「良かった」

 薄い笑顔を見せた菜穂は苦いコーヒーを口にする。
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