日溜まりの憂鬱
「久しぶり」

 挨拶に始まり「最近どうしてる?」などとお互いの近況報告へと移行する。このお決まりのパターンはテンプレートのようだと菜穂はいつも思う。

 野田さんこと野田響子(のだきょうこ)はかつての職場の同僚だった。

 菜穂は以前、地元ではそこそこ名の知れたスーパーマーケットに勤務していた。
 競合他社と差別化をはかり、少々高めであっても農家から直接仕入れたこだわりの野菜や果物を取り扱っている。
 最大の目玉である惣菜に関しては週に一回、有名レストランのシェフや老舗旅館の板長を招いて、お客の目の前で調理、それらを販売する。

 味も良く、またパフォーマンスという点でもお客の目を引き、瞬く間に完売していた。その企画を提案し大成功させたのは、当時、入社から僅か一年の野田さんだった。

 リーダー性に富み、気さくな性格。
 いつも彼女はキラキラと輝き、自信に満ちていた。
 菜穂は事務員として入社したが、レジに立つこともあれば、店内アナウンスを担当することもあった。時にはクレームの電話に応対したり、と要するに何でも屋だった。
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