日溜まりの憂鬱
 知らぬ間に溜息が溢れていたことに驚いた。ついてたよ、と目尻に小さな皺を寄せた彼は大きく伸びをしてから菜穂を抱き寄せた。

 修也から漂う石鹸の残り香を大きく吸い込む。一番好きな匂いだ。お湯に足を浸した時のような優しい痺れが心に広がった。

「野田さんに会うとさ、いつも自分がダメ人間に思えるんだよね。野田さんが光なら、私は影っていうのかな。全く生き方も考え方も違うでしょ。でも世間的には野田さんみたいな人のほうがウケが良くて、人生を楽しんでるんだろうね」

「またネガティブになってる。野田さんに会うといつもそんな感じだね。比較したところでどうなるものでもないんだし、気にしない気にしない」

「そうなんだけど……。けど子供がいないのに専業主婦してるって時間がもったいなくない? って言われたの」

静かに耳を傾けていた修也が、ひとつ瞬きを落した。
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