日溜まりの憂鬱

　自宅マンションから徒歩で１０分の場所にスーパーがある。
　かつて菜穂が勤務していたスーパーは高級感を売りにしていたが、ここは一般的な地元密着タイプのスーパーだ。

　エプロン姿のパートのおばさんが冷凍食品の試食を提供し、お買い得商品は無造作に積み上げられている。こまめに商品の乱れを正さないせいか雑然とした印象だが、特に気にならない。

　それよりかつての職場に足を踏み入れ、元同僚たちから声をかけられるほうが煩わしい。

　カゴの中にお買い得品になっている食パン、玉子、小松菜を放り込んだ。今夜はハンバーグにしようかと精肉コーナーに差し掛かったときだった。「菜穂ちゃん」と背後から声をかけられ心臓が飛びあがった。

　聞き覚えのある声にゆっくり振り返る。
　先日ランチを共にしたばかりの野田さんが立っていた。しまった、と本音が零れそうになりながらも菜穂は「野田さん！　びっくりしたよー」とわざとらしい声を出す。